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Foresight

理事長 上昌広

Foresight(2020年10月8日) 【連載】医療崩壊 (42) 「PCR検査拡充」なくして「経済回復」なし

日本の死亡数は1.23人、GDP成長率は-7.9%だ。確かに、英仏独伊など西欧先進国と比べれば、日本は死者数が少なく、経済的ダメージも軽い。ただ、日本と西欧では流行したコロナの遺伝子型が異なり、生活習慣からゲノムの民族差まで、大きな差がある。一律に比較すべきではない。では、東アジアに限ればどうだろう。死亡数は最も多く、GDP成長率は最低だ。死亡数は韓国の1.5倍、中国の3.7倍、台湾の41倍で、GDP成長率は中国より11.1ポイント、台湾より7.3ポイント、韓国より4.6ポイントも低い。東アジアで日本は1人負けと言ってもいい。

 集団免疫のような「ラディカル」な対策を実行するには、政府と国民の間の信頼感が欠かせない。ところが、スウェーデンの政府への信頼度は49%と、北欧諸国の中で最低だ。

 国民はコロナ感染のリスクが低いと「安心」しなければ、経済活動をしない。日本で、政府が飲食店の夜間の営業時間を延長しても、多くの飲食店で閑古鳥が鳴いていることなどがその典型だ。まず、政府がやるべきは、コロナを封じ込め、国民を安心させることだ。

これ(順天郷大学の研究)は、無症状者も多くのウイルスを保有し、周囲に感染させることを意味する。これこそが、コロナ対策が難しい理由である。日本のように感染者と濃厚接触者を検査するだけでは、多くの感染者を見逃してしまうことになる。

 コロナに感染しても無症状の人が多く、彼らが周囲に感染させる。また、無症状者の中には心筋炎や肺炎などの重症合併症を伴う人もいる。このような事情を考慮すれば、PCR検査の対象は拡充せざるを得ない。

 私は、PCR検査の拡充は、経済対策を議論する上でも極めて重要であると考えている。その際に参考になるのは、バブル経済崩壊の経験だ。知人の財務省関係者は、

「不良債権を明らかにして、すべて処理するまで信用収縮が続いたように、PCR検査の数を大幅に増やして、感染状況を明らかにしなければ、国民の不安は解消しない」

 医系技官が最後まで抵抗したのは、保健所以外の医療機関などでPCR検査を実施することを感染症法に盛り込むことだった。最終的に、このことは明記されず、感染研の独法化、ワクチン検定の「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)への移管などを承諾した。医系技官は、感染研の組織改革を受け入れても、保健所のPCR独占は守りたかったことになる。それだけ利権が大きいのだろう。日本のPCR検査の目詰まりの真因はここにある。

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