top of page

論座

理事長 上昌広

佐藤章ノート 「悪意はない」コロナの専門家たちを生んだ根源的問題~上昌広氏に聞く コロナ対策徹底批判【第四部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑬ 2022/2/26

私たち医学の研究者は思考のトレーニングを受け続けます。トレーニングで最優先の課題は現状把握です。十分に現状把握できないと対策なんて考えられません。日本の感染症の専門家はそうではなく、現実のリアルを知らない。だから、どこまでが事実でどこからが仮説なのか区別がつかなくなってしまうんです。標準とはどういうことで医学的なコンセンサスはどうなっているか、それに照らして自分の考えは間違っていないか。そういう訓練を(臨床トレーニングで)しこたまやられます。医系技官というのはこういう思考トレーニングを経ていない人が大半なので、自分の思い付きとコンセンサスとがゴチャゴチャになってしまいます。


 ダイヤモンド・プリンセス号事件について日本の専門家は、英米の一流誌や世界の一流誌に、何も発表していません。ダイヤモンド・プリンセス号を見て、世界は空気感染に動いたんです。あの時、論文を出して検証しておけば、日本でも空気感染がわかったし、「濃厚接触者」などという意味のないことも言わなくてすんだんです。事前に感染症法を改正しておけばよかったんですが、やっていなかったのですから。問題は、その後にわかってきた事実を前にした時の対応です。ダイヤモンド・プリンセス号を見れば、空気感染を第一に考えなければいけなかった。ダクトを通ってウイルスが別の部屋に行っているんですから、誰が見てもわかるわけで、その時に方向転換しなければいけなかった。重要なのはここなんですよ。たぶん医系技官や専門家にあまり悪意はない。正直言って、能力がないんです。


 気づくのに時間がかかるんです。追加接種の時もそうでしたが、問題に気づくのにちょっと時間がかかって遅れる。その間に事態が進んでしまう。問題に気づいた時点で対策を変えると、社会にすごく影響が出てしまうんです。省内での出世競争も影響しているでしょう。省内で競争して勝ち残った人が栄誉を得ていくので、科学的な正しさよりも組織の論理を優先することになります。

 医系技官の場合は、データをすべて独占する。国そのものなのでライバルもいない。だから外からはチェックのしようがないし、外部に出た人は何も言いようがないんです。

bottom of page